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タイ王国憲法に対する障害者の関与と成立過程

仏歴2550年(2007年)タイ王国憲法の成立背景

本憲法はクーデターの結果成立した憲法である。2006年9月にクーデターが発生し、1997年憲法が廃止されるとともに、下院・上院・内閣・憲法裁判所も廃止され、暫定憲法が2006年10月1日に公布された。そして2007年憲法は、暫定憲法によって定められた手続きに従って、2007年8月10日に国民投票を経て、同月24日に公布された。障害者の権利に関しては、前憲法より2007年の憲法の方が進展を見せており、その進展を導いたのは障害者たちの活動であった(西澤2010:120)。

2007年憲法は、クーデター後に制定された憲法であるが、それまでのクーデターと異なり、憲法制定には国民の参加が強く意識された。これは暫定政府が憲法の制定過程に国民の意見を聞く機会を設けたことからも、明らかと言ってもよいであろう。西澤(2010)によれば、新憲法の起草を目的として「国民議会」「憲法起草議会」「憲法起草委員会」が設置された。国民会議は、憲法起草議会議員の選出母体で、2000人以下の議員で構成される。憲法起草議会は100人の議員により構成され、国民議会議員の互選による候補者名簿200人から国家安全保障評議会が選出する。憲法起草委員会は、憲法起草議会によって選出される25人と国家安全保障評議会の助言に基づき選出される10人の合計35人によって構成される。


図1:千葉が西澤(2010:123)をもとに作成

さて、西澤(2010)によれば、障害者の権利について憲法を起草したのは「権利及び自由、国民の参加、並びに権限の分散に関する第1憲法起草小委員会(以下第1小委員会と表記)」である。またこれとは別に、2006年暫定憲法下における国家立法議会の下に「子ども、少年、女性、老人、障害者および人間の安全保障に関する委員会」という委員会があり、その下部委員会として「障害者に関する小委員会」が存在する。その「障害者に関する小委員会」の第一回会議が2007年1月16日に開催され、タイ障害者協会理事会との間で、新憲法起草についての審議が行われた。

一方で、2007年4月に(憲法起草委員会)から第1草案が提出されており、その草案に対し障害当事者団体から修正提案が提出され、それが憲法起草第1小委員会で取り上げられている。ここで注意が必要なのは、西澤の資料(2010:125)には、「障害者に関する小委員会」からの提出とは書かれておらず、「障害者団体からの提出」と書かれている点である。「障害者に関する小委員会」は、障害者協会と議論を重ねているので、恐らく提案された修正案は小委員会でも話し合われた内容だと思われるが、修正案を提出したのは小委員会ではなく、障害者団体とされている。

さて障害者団体から提出された修正提案であるが、その後、憲法起草第1小委員会で何度か審議され、ほぼ提案通りに修正されている。修正箇所は、第30条と第53条であり、差別禁止条項に「障害者」の文言を挿入することに成功している。しかし、障害者団体から提出された修正内容がすべて受入れられた訳ではないようである。起草過程において受入れられたのは、その一部であった。しかしそれでも、「憲法起草者の考え方を変えたのは、まさに障害者自身が率先して活動し、憲法起草過程に参画したからであると言える」と西澤(2010:128)は結論づけており、障害者団体の功績を認めている。ちなみに、憲法起草委員会で修正された障害者に関する条文は、憲法起草議会においては、ほとんど議論されずに承認されている。