フィリピン
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障害者の現状
障害者の統計
障害関連の政策と法律
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障害者の就労
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社会保障制度
障害関連施設・リハビリテーションセンター
参考資料
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障害者の就労

障害者のマグナカルタ法では、障害者に対する機会均等が権利として認められており、その為、多くの政府機関には5%の法定雇用率が課せられている(第5条)。森(2012:162)は、NCDA(National Council on Disability Affairs)の2011年度の調査をもとに、フィリピン中央政府に雇用されている障害者の数を855人と報告している。そのうち、教育省に雇用されている障害者がもっとも多く565人であり、次いで郵政公社が95人となっている。中央政府における障害者の雇用率の平均は2.72%となっており、残念ながら5%にはまったく届いていない。またフィリピン中央政府・地方部局に雇用されている障害者は1,585人である。

表1:フィリピン政府の省庁別障害者雇用数(2004年)
省庁人数総人員比率(%)
社会福祉開発省(中央)177552.25
保健省(中央)31,9370.15
教育省(中央および地方)565
労働雇用省321,9011.68
農業省6911,4060.60
農地改革省(中央およぼ地方)2611,5460.23
運輸通信省(中央およびCAR, CARAGA)95481.64
環境天然資源省(中央)16
全国障害者問題評議会65510.91
郵政公社(中央)95
国防省(軍人)32421.24
国防省(文民)143,0540.46
合計85531,4442.72
出典:森(2012:163)より転載
注)総人員はNCDAの把握した数字であり、比率はそれによって計算された。

民間企業に対して法定雇用率は課せられていないが、障害者雇用を促進するインセンティブとして、障害者に支払われる給与の25%の免税や、障害者採用に伴う設備回収費用の50%の免税などが存在する(森 2012:164)。しかし森(2012)の報告によれば、このインセンティブはほとんど機能していない。その証拠に、2011年12月に森が自ら行った政府へのインタビューによれば、このインセンティブを利用した免税などへの申請はほぼゼロであった。その理由は、免税への諸手続きに必要なコストと便益を比べると、割に合わないとの企業判断によるものだった。

フィリピンの障害者雇用の現状を総合的に網羅している統計は発見できなかったが、NSOの2000年の国勢調査によれば、15歳以上の障害者の57.12%が雇用されており、雇用されている障害者の多くは、障害は仕事をする上で妨げにはなっていないと考えていた。雇用されている障害者のうち、30.94%が農業や漁業などの第一次産業に携わっており、10.81%が労働者や軽作業員である。

森(2012)は、国連の障害者統計に取り組むワシントングループの第5回会議の報告(Ericta 2005)から、フィリピンの障害者の34.5%が賃金労働者、22.71%が自己雇用の労働者、そして25.71%が家事労働者、健康上の理由で就労していない人が8.8%だと報告している。この結果は、2005年に345家計の18歳以上の1057人を対象に実施された調査がもとになっている。

また森(2010a)が実施した標本調査によれば、標本障害者403人のうち約半数が雇用されていた。障害種別に見ると、視覚障害者の就業率が71.5%と非常に高く、次いで肢体不自由障害者の44.2%、聴覚障害者の31.5%となっている。雇用主を見ると、肢体不自由障害者のうち就業者61人の約6割に相当する38人が自ら事業を行っており、視覚障害者の場合は、自己雇用が34%、一般民間企業が27%、そして自助団体が23%となっている。聴覚障害者に関しては一般民間企業での雇用が44%である。視覚障害者は、マッサージ師として働く人が多く、視覚障害を持つ就業者103人のうち67人(65%)がマッサージ師である。

障害者の就職活動に関し、フィリピンでは求人をしている企業が合同で開催するジョブ・フェアと呼ばれるものがあり、このジョブフェアに参加し面接を受けるという方法がある。森(2010a)が調査した標本障害者では、全体の16.6%がジョブフェアに参加した経験を持っていた。ちなみに、標本障害者の年間平均所得は60,173ペソであった。(*約14万3千円、2013年6月時点)

表2:職業の障害別分布
 障害
肢体視覚聴覚重複
情報通信関連労働者00303
マッサージ師0670168
オフィル労働者・管理者43108
工場労働者・管理職02305
商店店員・管理職72009
教師02002
芸術家・音楽家21003
その他4826274105
61103345203
出典:森(2010a)より転載

政府の雇用対策

フィリピンには障害者の雇用促進のため労働雇用省(Dept. of Labor and Employment: DoLE)が大統領令第261号(1995年)により設置されており、障害者の職業訓練と雇用を目指したプログラムを1994年から開発し、実施している。このプログラムは、TULAY(障害者支援サービス)と呼ばれており、技能適正の調査、技能訓練、賃金雇用と自己雇用の4つのプログラムを有している。また2000年からは、障害者支援パッケージが開始されており、技能・生計訓練、製品のレベル向上、技術開発およびマーケティング、物産展参加支援、企業家・経営能力開発支援などが行われている(森2012)。TULAYによる実施状況は、表2の通りである。

表3:TULAY実施状況(1994 - 2010年)
裨益者数
就職斡旋その他
199468
19952749
19963081
19971476
19983264
19992663
20003403
20012026
20023090
20031358
20041503
20051201
20061854
20071227
20081863
20091697
20101126160
合計33649160
出典:森(2012:165)より転載
注1)2009-2010のデータは、生計支援プログラムの参加者のみ
注2)その他項目は、眼鏡を視覚障害者に提供した数

TULAYは、障害者登録とそのデータバンク化、空きポストや訓練、自己雇用(個人事業主)プログラムといった障害者のための雇用機会の提供、中央政府とNGO、また地方自治体間での連携、アドボカシーや情報キャンペーンなどの啓蒙、プログラム実施者のための能力構築などを実施している。表2をみると、実績も上がっているが、最大の問題は実施数の割に効果が上がっていないことであり、それは対象機関の多くがNGOなど小規模のところであることが原因と推定されている(森2012:165)。

その他にも、フィリピンにはTESDAと呼ばれる職業訓練担当機関があり、ここでは、全国障害者技能コンテストが2001年から実施されている。またTEADAは、生計訓練、企業家訓練、リーダーシップ訓練なども実施し、その他にも、技能訓練の奨学金制度や私立学校奨学金制度(PESFA)もある(森2012:165)。

その他にも、科学技術省が、障害者や団体を対象にプログラムに必要な機械や設備、運転資金を提供する支援制度もあり、環境天然自然省もゴミ再生や織物、パン焼き、腐葉土作りなどの訓練プログラムを提供している。また社会福祉開発省による、全国職業訓練センターやリハビリテーション作業所もあり、障害者に訓練・雇用の提供をしており、都市部には、公共職業安定機関(PESO)が障害者向けに雇用支援を行っている(森2012:166)。

職業訓練

中西(1996:174)によれば、障害者の職業訓練所は、国立職業リハビリテーションセンターひとつと、地区職業リハビリテーションセンターが3つある。対象は、身体・視覚・聴覚・知的障害に加え、精神病回復者、刑期終了者も含まれている。婦人服、紳士服、登記、木工、養豚、園芸などを指導している。他に、「更生障害者工業ワークショップ」で食料品の生産している。また1965年に設立されたNGO「階段のない家」では、福祉工場として溶接や木工、包装、洋裁、食料生産などに加え、車イスの生産も行っている。